菊菅 菊太郎刃物製作所
見て覚え習って覚えた手わざが人の信頼を呼ぶ。
使い続けていく人にうれしい刃物といえば菊菅。
細い階段を2階へ上がると、刃物を研ぐシュッシュッという独特の音が聞こえてきた。それ以外は無音で、店内には静謐な空気が流れている。そこに客らしい老夫婦が、何やら手持ちぶたさに店の片隅に佇んでいた。「菊菅 菊太郎刃物製作所」は、今では珍しくなった包丁やはさみなどの刃物の研ぎと、しっかり向き合っている。店主の菅野さんは、広島に三代続く研ぎ師で、このうらぶくろへ店を構えてから20年以上。「刃物といえば菊菅」といわれるほど広島の人にとってはその名前とともに馴染みが深く、信頼もあつい。プロの料理人にとって刃物は、他と比べようがないほど大切なものといい、切れ味に少しでも違和感を感じると、相談がてら菊菅へ。そこで砥石の扱い方、刃物のメンテナンスの仕方を改めて習う。出刃包丁や刺身包丁など、使い込むほどに料理人のクセがつき、鉄など素材の金属は次第に磨耗していく。握りの木製の柄の部分が、毎日水にさらされていくことでダメになることもある。この先の調整は、まさにプロの研ぎ師に任せる他はない。
家庭の主婦でも、長年使い込んできた包丁は手放し難く、切れ味が悪くなったと思ったら新聞紙へクルクルっと巻いてここへ駆け込む。そして菅野さんとは、切っては切れない縁でつながっていくのだ。いま店の端で待つ老夫婦の客も、そうした長い縁があるようだ。
見て体感してわかる技術の高さ、どのような刃物もお任せ。
家庭用文化包丁、業務用出刃包丁、お好み焼きのヘラの刃とぎ、牡蠣打ち用の刃物、はさみ、また歪んだ砥石の直し、滑り止めの柄の作成、錆び取りなど、刃物のことなら「菊菅 菊太郎刃物製作所」で無理ということはほとんどないのではないか。それほど丁寧で真剣に向き合っている。「最近は素材が鉄では重くて錆の手入れが大変という主婦の方が、ステンレスの包丁を使う傾向にありますが、私はどのようなものでも研ぎますよ」と菅野さん。研ぎの料金は技術に比べ比較的リーズナブルで、普通の家庭用刃物で2,000円から。人に優しい刃物を目指す菅野さんの心意気が見て取れる。店は朝10時半から夕方まで。技術の高さと独特の緊張感、二人三脚のご夫婦の人柄は、ぜひ店で接して体感したい。
私のおすすめうらぶくろ!
元気がいつも見えるうらぶくろ、この街で過ぎゆく時間が愛おしい。
「いろいろな店が増えて、このあたりも少しずつ変わってきていますね」と菅野さん。そのような中で昔ながらの店というと、隣に店を構える“こっとう史音”。実は菅野さんの姉夫婦が経営をしていて、刃物とこっとう、物は違えど互いに深いこだわりがあるところは似通っている。さりげなくいつも元気を確認して、いい距離感で日常が続いている。
菊菅 菊太郎刃物製作所
〒730-0036 広島市中区袋町2-9 菊菅ビル2F
営業時間:10:30~18:30
URL:http://www.kikusuga.jp
TEL:082-247-2373